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おたっきー調査隊 テーマ:田中澄憲監督に聞くコロナに見舞われた2020年シーズン─指揮官の胸中(VOL.27)

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対抗戦連覇を果たしたものの、大学選手権準決勝の天理戦でよもやの完敗を喫し、シーズンを終えることになった今季の明治。コロナ禍という厳しい環境下で、指揮官である田中監督はどのようにチーム作りを進めていったのか、話をうかがいました。
 

「学生が4年間で成長し大人になっていく過程を見られるのは指導者の喜び」

 

コロナへの適応を強いられたシーズン

――まずは今季の総括からお願いします。 
 今季はコロナに尽きますね。4月から3カ月間チーム全体での活動を休止しましたが、この期間、寮に残った選手たちのモチベーションと、実家に帰省した選手たちのチームへの帰属意識をいかに切らさないでいられるか。苦労したとまで言いませんが、非常に腐心しましたね。8月に活動再開してからは、ラグビーができる楽しさ、ありがたさを感じながら、目標である日本一に向かってチームで取り組んでいきました。

――3カ月も活動休止を余儀なくされるのは、チームを作るうえで大きな影響がありましたか。
 やはり大きいですよね。来季に関しては既に2月8日から始動していますが、この2月から6月はチームの根幹を作る期間です。2月から4月の3カ月でベースを作り、5月からはそのベースとなるものがどれだけ通用するかを実戦で試し、うまくいかないものは修正する。この時期は心も身体も技術も本当に成長できる期間です。どのチームもそうかもしれませんが、それがなかったのは、指導者にとっては厳しいですよね。

――選手たちの意識の高さもあって、コロナの陽性者を出すことなく、シーズンを乗り切りました。これは大きかったのでは?
 そうですね。それが一番の目的というか、陽性者が出て競技そのものができなければ元も子もないので。選手は長い間、自分たちを律してよく取り組んでくれました。一般の若い子は外出していたようですが、そうした姿を報道などで知るなかで、「自分だっていいんじゃないか」という気持ちに駆られることもあったはずです。そこをグッと我慢して、よくやってくれたと思います。

圧倒的だった天理の強さ

――対抗戦は主に週に1度のペースで試合が組まれていたため、開幕前には「リカバリーが重要」とおっしゃられていました。
 開幕後は主力選手にケガ人が出なかったので、そこはうまくいったと思います。特に変えたところでいえば、練習後のプロテインの飲用をルール化しました。シェイカーを練習の場に持参して、練習直後に水を入れてプロテインを飲む。この取り組みは効果がありましたね。

――SOの山沢選手が対抗戦開幕直前のケガで試合への出場が叶いませんでした。この影響はやはり大きかったのでしょうか。
 間違いないですね、エースですから。そのために、池戸や廣瀬といった1年生がスタメンのチャンスをつかむというプラスの面はあったにせよ、正直にいえば、プラスマイナスゼロではないですよね。まあ、こうしたことも含めて人生なのではないかと、いまは考えています。

――シーズン最後のゲームとなった、大学選手権準決勝の天理戦についてうかがいます。改めて試合をレビューされて、新たに感じたことはありましたか。
 とにかく天理が素晴らしかった。選手一人ひとりに勢いとフィジカルがありましたね。上から乗られるというか、相手側に倒すようなタックルを食らい、そのせいでノットロールアウェイを何度も取られました。あとは、SHの藤原選手が作るテンポの速さ。明治のディフェンスのセットが間に合わず、どんどん食い込まれてしまい、これが一番の敗因になったと思います。

――想像以上だった、と。
 いえ、想定はしていました。天理のテンポでゲームを展開されたら、絶対に勝てないと考えていましたから。そのためにディフェンスがカギになると見ていたので、対策をしましたが、それでもやられてしまいました。本当に素晴らしいチームでしたね。近年の大学ラグビーでもトップクラスではないでしょうか。
 
 

大学ラグビーは群雄割拠の時代

――コーチとして関わるようになった、2017年度以降の4シーズンすべてで正月越えを果たし、うち3回は決勝まで駒を進めました。監督が現役だった頃のような、強い明治は復活したといえるでしょうか。
 1990年代が明治の黄金期で、大学選手権を5度、対抗戦も8度制しています。その後、関東学院や早稲田が強い時代があって、帝京が9連覇。しかし、それ以降は明治、早稲田、天理と大学王者はすべて異なるチームです。つまり、多くのチームに優秀な外国人選手がいたり、トップリーグを経験したコーチが在籍するなど以前と比較して、どのチームも環境が整ってきています。それは戦力の拮抗を意味しますから、かつてのように連覇を続けるチームは出てこないのではないでしょうか。そうした状況のなかでも毎年優勝争いに加われているので、強いチームにはなったと思っています。

――改めて、大学生を指導することの喜びはどこにあるのかをお聞かせください。
 学生が4年間で成長して大人になっていく過程を見られるところでしょうね。今季でいえばHOの田森が象徴的ですが、2年生から3年生の段階で大きく成長しています。こうした成長に間近に接することで、僕たちスタッフも学ぶ点がたくさんありますね。

――先日、来季の新体制が発表され、新主将は飯沼選手に決まりました。彼の長所と、期待することをお聞かせください。
 蓮は2年生のときから不動のレギュラー。9番として年々スマートになってきていますし、余裕も出てきて、プレーヤーとしての信頼はすごくあると思います。これから必要になってくるのは、人を動かしていくための周囲との関わり方。同期はもちろん、特に下級生たちへの気遣い、目配せをして、気づいたことがあれば声をかけていく。SHはそういう洞察力が必要なポジションですし、それを持っている選手なので、リーダーとしていかしてほしいですね。

――新しい4年生の代はどういった学年だと認識していますか。
 真面目で根気があり、幹部を決めるにあたって何週間も毎日集まって話し合いを重ねていました。今季は「(箸本)龍雅だろ」みたいな、やや大味な感じがあったかもしれませんが(笑)、蓮が中心となって多くの選手の意見を取り入れながら決めていったようです。
 その象徴が副将の大石。今季トップでは出場が叶わなかった選手で、「それでも大丈夫なのか」というところまでとことん話し合ったそうです。1年生のときには学年リーダーを務め、人徳や発信力があるタイプなのでリーダーシップを発揮してほしいですね。学年全体でいえば、2017年度の古川満(現・トヨタ自動車)の代に似ているところがあり、強いまとまりを見せてくれるかもしれません。期待しています。