廣瀬雄也主将
ビッグゲームを目前に控えても、キャプテンの神経は必要以上にたかぶらない。もっとも大事なのは、自分たちへのフォーカス。創部100年目の紫紺の主将は冷静に、そして熱く、明早戦の勝利を見すえる。
ディフェンスが勝敗のカギを握る
――シーズンも終盤を迎えました。今季めざしている「ハイブリッド重戦車」の完成度はいかがですか。慶應戦の前半、とくに開始10分は体現できました。FW、BKともにモメンタムを持って前へ出られた。さらに高いワークレートで常に数的優位を保ち、随所にスペースをつくり出せました。片鱗は見せられたと思います。ただし80分、継続するのは難しい。あの後半の内容では、とてもハイブリッドとは言えません。
――体力を求められるんですね。
疲労感はかなりあります。でも、その運動量があるからこそ多くのトライを奪えている。ラグビーはいつも自分たちのペースで進められるとはかぎらない。(慶應戦の)後半は相手に渡った流れを取り戻せないまま終わってしまいました。ハイブリッド重戦車を試合を通じて体現するにはどうするべきか。そこが課題です。
――ディフェンスはいかがでしょうか。
今季は少ないフェーズであっさりトライを取られる場面が見受けられます。 ディフェンスが機能しているときは、みんなが全力で取り組んでいます。ラインスピード、コンタクトの強度、ブレイクダウンでのしつこさ。全員が100パーセントで取り組めば、相手の攻撃意欲や気力を奪えます。慶應戦の後半はベンチで見ていると7割、8割くらいの印象を受けました。ラインも引き気味で、少しゲインされただけで焦り、パニックになっていた。ワントライを失うのは、ある程度は仕方ありません。重要なのはそこからの建て直し。リーダー陣を中心に、意識を統一する必要があります。
――システムやタックルについては?
システムは明確になりましたが、ワン・ブイ・ワンのタックルの精度の低さが問題です。システムとタックルが連動しているときは、すごくいいディフェンスができています。一方で、悪い形でボールを奪われる。外に回されてゲインラインを切られる。こうした想定外の状況に陥ると、うまく守れていません。
――ジュニアとはいえ、10月22日の帝京戦は見事に守り勝ちました(29〇28)。
その試合のディフェンスがすごくよかったのは事実ですが、タックル成功率は70パーセント台。ひとり目が外される場面が目立ちました。それでも僅差で勝てた理由は、運動量と気持ち。抜かれたあとも、みんなが全力で自陣に帰っていた。Aもジュニアもやればできるんです。思うようにならなかったときの原因を見つけて、次につなげていきたいですね。
――早稲田には速い選手、うまい選手が数多くいます。どう守りますか。
例年通り、展開力があります。お互いにアタックが持ち味のチームなので、ディフェンスがカギになるはず。ワークレートと気持ちを含めて、本番までに完成度を高めて臨みたいと思います。
強さを出してこそ「形」も活きる
――アタックは機能していて、今季はオフロードもまじえた、自陣からつなぐ形の美しいトライが目立ちます。FWのフィジカルが強く、ワン・ブイ・ワンで必ず前に出てくれる。そこが大きいですね。ハンドリングスキルも高く、結果、後ろにいるぼくらにスペースに与えてくれています。相手のBKも、明治のFWが気になって止めにくいと感じているはず。BKのレベルが高いと評価されますが、相手ディフェンスラインがそろっていれば、簡単にはゲインできません。FWには感謝ですね。
――廣瀬選手自身も、チームやBKのテーマである「モメンタム」「デストロイ」を意識してか、ボールを持てば「強く前に出る」選択をするケースが多いように感じます。
対抗戦も終盤を迎えると、サインプレーを含めてたくさんのオプションを用意します。それがかえって形へのこだわりにつながり、自分たちの強さを忘れてしまうのが例年の課題でした。形はあくまで形であって、強さを出してこそ活きてくる。ぼくだけでなく、みんなが理解して実践できていると思います。
今季のBKは相当な準備、トレーニングを重ねてきました。自信は十分に持っています。そもそも紫紺を着ている以上は、「自分たちがいちばん」だと思わないといけない。その自信がよいプレーや結果を生むと思っています。
――練習ごとに「大学選手権決勝まで、あと●日しかトレーニングできない」と必ず言っているそうですね。
ただの練習で終わらせず、試合やターゲットに対して実感を持ってもらうためです。明早戦が終われば、決勝まで約40日。6週間ほどしかありません。強度の高い練習をするのは週1回なので、時間は本当に限られています。その週の相手に対する準備はもちろん、常に決勝で勝つことを視野に入れないといけない。だから「決勝」と「優勝」も必ず言います。何気なく聞いているかもしれませんが、練習のたびに口にすれば嫌でも頭のなかに残っていくはず。頂点をめざすには、自分がそういうチームの一員だと認識するのが大事。すくなくとも、ぼくはそう考えています。
先手を打って流れを引き寄せたい
――早稲田の印象はシーズンが深まって変わりましたか。メンバーが定着してきましたね。(伊藤)大祐をキーマンに、岡﨑颯馬や野中(健吾)くんが脇を固めて、最後は矢崎(由高)くんが1年生らしい全力プレーで仕掛けてくる。怖い相手だと思います。
――その伊藤選手は帝京戦でFBに入り、よい動きを見せていました。
BK陣の間でも、10番よりも15番のほうが嫌だと話しているほどで、正直、厄介ですね。ただ相手を気にしすぎても仕方ない。まずは自分たちにフォーカスすることが大切です。 ――力関係には自信がありますか。
そうですね。先手を打って、流れを引き寄せられるかどうか。そこが勝負の分かれ目。試合のなかのターニングポイントを制して、明治の時間をできるだけ多くしたいですね。その展開に持ち込めば、自然と結果はついてくると思います。
――では最後に。どのようなプレーを見せて、この大舞台での勝利に貢献したいと考えていますか。
現時点でメンバーが決まったわけではありませんが、明治の12番を背負って明早戦のピッチに立てるのがなによりもうれしい。このポジションで、4回も大事なゲームを戦えるのはすごく貴重な経験です。だからこそ12番の役割をしっかりと果たしたいと思います。 主将としては、みんなで同じ絵を描いて臨みたい。大きな試合ではパニックになったり、「自分がなんとかしなければ」と考えて焦る選手もいます。試合前のハドルでイメージを共有して、うまく緊張を解いてあげたい。それをどういう言葉で伝えるべきか。本番までに考え抜きます。そして、ひとつにまとまり、自分たちを信じて勝ちにいきます。