ウイニングカルチャーを根づかせ、明治を見事に復活させた田中澄憲前監督に話を聞いた。
神鳥式マネジメントで選手が変わる
トップリーグの日程の関係上、シーズン途中での監督交代になるのはわかっていたので、違和感なくスムーズに神鳥さんへと引き継ぐことを大切にしました。何より大事なのは選手を不安にさせないこと。神鳥さんには負担をかけてしまったのですが、2月以降は頻繁にこちらに来てもらいました。選手たちに伝えたのは2月の新チーム集合時。自分が退任すること、次の監督は神鳥さんであること、正式な交代は6月になることを伝えました。ただしやることが大きく変わるわけではなく、変わるのはあくまで監督のポジションだけで、ラグビーの中身に関してはヘッドコーチの伊藤が引き続き行うので、大きな混乱はなかったと思います。神鳥さんは直接的な指導を頻繁にされる方ではありません。どちらかといえば、マネジメントをしっかりやられるという印象です。ただし決して放任しているわけではなく、言うべきことはしっかりと言われますし、選手を正しい方向に導くには労を惜しみません。その選手が間違っていると思えば、しっかりと話をして相手を納得させる。時間はかかるのかもしれませんが、決して強制的な指導はしないので、その点では選手たちも貴重な経験ができるのではないでしょうか。
特に、選手の話をしっかりと聞いて、考えさせるのは大切だと思います。いまはスマホもあって何でも情報が入ってくる時代です。ある意味で考える必要がなく、昔に比べると、自分で想像する、イメージする力は弱くなっていると感じます。たとえばルールを作る場合、それに沿って考えればやってはいけないことはわかるものです。しかし、いまの選手たちは本質を考える力が乏しいので、「これはいいんですか?あれはいいんですか?」と、ひとつの大きなルールを決めればわかるだろうと思えることも細かく聞いてくる。なんのためにそのルールが設定されているのかを考えないまま、現象だけを見ているのです。その意味でも、神鳥さんの指導方法はいまの選手たちをよい方向へと進めてくれるはずです。
コーチングにも新たなエッセンスが加わる
グラウンドのなかでの指導において核となるのは、今季もヘッドコーチの伊藤とFWコーチの滝澤のふたり。神鳥さんには、「信頼できるコーチがいるなら、呼んでいただいてかまいません」と言いましたが、「いや、いまの明治が積み上げてきたものがあるだろうから、そこは彼らを頼っていくよ」と話されていたので、不安なく進めていけるのではないかと思います。また、監督就任前に何度も練習を見に来てもらっていますが、「いい練習ができているし、そこに違ったエッセンスを加えられるかもしれない」とも話されていました。だから、伊藤や滝澤にもこれまでとは違う刺激が与えられて、変わっていくことができるのではないでしょうか。また昨季、連携の面で課題があったフィジカル部門を見直すため、里大輔さんをマネージャーとするフィジカルパフォーマンスチーム(PPT)をつくりました。 里さんの下にS&C、メディカル、管理栄養士がいて、全員が同じ絵を見ながら仕事をしていくという枠組みです。里さんは緻密な計画を立てられますし、その枠組みの中で横の連携を図りながら、チーム全体のフィジカルを強化していきます。
最後に、いつも応援してくださるファンの皆さんに感謝申し上げます。見返りを求めず、純粋に明治を応援する皆さんの存在が、在任中は大きな支えになりました。これからは同じOBの立場になりますので、見かけたら気軽に声をかけてください。