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明治大学ラグビー部監督 田中澄憲 ~3年目のシーズンへ 非常事態にどう対応するか~(VOL.25)

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新チームが本格的に始動するタイミングで、新型コロナウイルスの影響を受け活動停止を余儀なくされた。今後もできる限りのウイルス感染予防策を講じながらシーズン開幕へ向けて準備を進めることになる。この現状を指揮官はどう受け止め、どうチームづくりを進めていくのだろうか。
 

不測の事態にいかに対応していくか

――新型コロナウイルス蔓延の影響により、チームは4月3日に一時解散となりました。それから約2ヵ月(※電話取材日=5月29日)、チームはどのように過ごしていたのでしょうか。
 寮のある(東京都)世田谷区は、その当時は都内でも感染者が多く、保護者の方も心配されていたので50名ほどが帰省しました。残りの約40名が、就職活動や家族に高齢者がいるという事情もあり残っています。寮に残った選手には、まず不要不急の外出を禁止し、1日3回の検温、手洗い・うがいを徹底させました。練習に関しては自主的なトレーニングのみ許可しました。

――トレーニングのメニューに関しては、S&Cコーチから何か指示があったのでしょうか。
 ウエイトトレーニングは、参考程度にメニューの提示はしますが、強制しているわけではありません。寮に残った選手は寮内のジムを使える環境にいるので問題ありませんが、帰省した選手の多くは器具がないのが実情です。そういう選手には自重トレーニングのメニューを紹介したり、ZOOMを使ってのトレーニングに自由意志で参加してもらうなどしています。

――監督ご自身はどのような心境で過ごされていましたか。
 正直に言えば、当初は3週間から1ヵ月程度で再開できると思っていました。いよいよ、そうではないとわかったときに、先のことをあれこれ考えるのはやめようと。それよりも選手の頭からラグビーが離れず、チームへの帰属意識がなくならない、こうしたことを実現するためにはどうすればよいかを考えるようになりましたね。
 そのために、SNSを使ってチーム全体にメッセージを発したり、オンライン上で個人面談を行ったり、あるいは寮には毎日顔を出しているので、そこでコミュニケーションを取ったり。選手の気持ちがオフモードにならないことにフォーカスしていました。

――5月25日に東京都の緊急事態宣言が解除されました。再集合の目処は?
 現状では大学側からの活動許可が下りていないため、まだ何も決まっていません。授業も前期はオンラインで行うことが決まっていますし、そうした状況で部活動だけが許可されるのもおかしな話ですから。

――今後、秋からの公式戦が予定通り行われることになった場合、そこを目指すうえでのプランニングはどのようにお考えでしょうか。
 再開後すぐにラグビーのスキルや戦術に手をつけるのは難しいでしょうね。まずはベースの体づくりから始めなければいけません。現状、個人でフィジカルトレーニングに取り組んでいるとはいえ、強くはなっていないでしょうから。そのうえで、ワールドラグビーから指針案が出ているように、世の中の状況に合わせて、ラグビー自体も密な状態を避ける必要があるので、いきなりコンタクトプレーを行うのも難しいと思います。

――先日、ワールドラグビーが案として発表した指針に関してうかがいます。競技性としてどのような影響を与えるでしょうか。
 もしスクラムの組み直しを行わないルールが施行されるのなら、それほどスクラムにこだわらなくてもよくなると思います。その結果、ゲームスピードが上がるはずなので、フィットネスの向上を目指さなければいけないでしょう。フォーカスする部分は確実に変わるでしょうね。
 

自覚ある行動に取り組む最上級生たち

――昨シーズンは順調にチームづくりが進んだと思いますが、残念ながら大学選手権決勝の早稲田戦で敗れるという結果に終わりました。今季に向けての整理はできましたか。
 いろいろな原因がありますが、ひとつは、最後の大一番で力を出せなかったというメンタル面でのピーキング。最後の最後で突き詰めた準備ができなかったというか、心のどこかに「勝てるだろう」という気持ちがあったと思います。
 あとはメンバー間の競争はもっと必要でしたね。メンバー同士の高いレベルでの争いはもちろん、練習の段階から体をぶつけて競い合うタフなトレーニング、痛いトレーニングをもっと行うべきでした。昨季はメンバーとそれ以外の選手に力の差があって、練習段階でメンバーにケガをさせてはいけないという気持ちがあったかと思いますね。だから今季は、グラウンドで競い合う意識にフォーカスしていくつもりです。

――昨季までBKコーチだった伊藤さんが、今季からヘッドコーチに就任しました。この意図を教えてください。
 役割分担を明確にして、意思決定を早くすることが目的です。昨季までの伊藤はBKコーチという立場ながら、チーム全体のアタックを指導していました。そこで何かを決める際、(監督の)僕に相談して承認するという手順を踏むのですが、そのやり方ではどうしても余計な時間がかかってしまう。
ラグビーの部分はある程度、伊藤に任せて、最終的には伊藤が思い描いていることをしっかりと遂行してもらえれば、スピード感が増すかなと。僕はチーム全体を見渡して、組織を健全に動かしていくことに集中していきます。

――新キャプテンには箸本龍雅選手が就任しました。昨年の夏には、本人にそれとなく伝えていたと聞きました。彼の主将としての適性をどこに感じましたか。
 箸本に限らず、リーダーになるであろう選手には心構えを持ってもらうために、その時期に話はしましたね。箸本は決して皆の前でうまく話せるタイプではありませんが、プレーやトレーニングに取り組む姿勢は、1年生の頃から他の選手とは違うものがありました。東福岡でもキャプテンの経験がありますし、リーダーとして必要なものは十分に備えていると思います。

――以前、「ラグビーが好きな選手が多い」とおっしゃっていた学年が最上級生になりました。その姿勢に変わりはありませんか。
 ないですね、ラグビー小僧が本当に多い学年なので。今回のコロナの影響で、チーム全体で動けない状況になったため、気持ちが切れてもおかしくないのですが、そうはなっていません。リーダー陣を中心に4年生で集まって、今後どうしていくかという話し合いを頻繁に行っているようです。寮生活の規律も、昨年よりもいいと感じるほどです。大人というか、精神的にすごく成長していると思いますね。4年生一人ひとりが自覚ある行動をしているので、これからが本当に楽しみです。